ピアノで奏でる「前前前世(君の名は。)」はどんな響き?
- Yeoul Choi
- 7月30日
- 読了時間: 7分
Torby Brandによる「前前前世」(RADWIMPS)のピアノアレンジとは?

2016年公開の日本のアニメ映画『君の名は。』は、違う時代と場所に生きる少年・瀧と少女・三葉が、夢を通じて入れ替わるようになる物語です。最初は戸惑いながらも次第にお互いを理解し合い、やがて運命に導かれるように迫る大災害を防ぐために力を合わせていきます。美しい映像表現と心揺さぶる音楽が重なり合い、世界中で高い評価と多くの共感を得た作品です。
RADWIMPSの「前前前世」は、『君の名は。』の中で、瀧と三葉という二人の主人公が互いの存在を意識し始め、運命に導かれていく重要な場面で使用されています。この楽曲はテンポの速い(190BPM)と力強いJロックサウンドが特徴で、エレキギター、ドラム、ベースによるエネルギッシュな演奏が全体を牽引します。感情的なメロディとバンドサウンドの力強さが絶妙に融合しており、聴きごたえのある仕上がりとなっています。また、「前世から君を探していた」といった歌詞は、時間や運命といった映画のテーマとも深くリンクしており、作品の世界観をより一層引き立てています。この曲は、映画の中でも特に印象的なシーンの雰囲気や感情を高める、非常に重要な役割を果たしています。
本日は、Torby Brandによる「前前前世」のピアノアレンジ版に焦点を当てます。実際に楽譜を使ってピアノの練習を始める前に、まずは曲の構成を理解することをおすすめします。曲全体の構造を把握することで、お気に入りの楽曲をより明確に理解できるようになります。
「前前前世」の構成
RADWIMPSの「前前前世」は、クラシックなヴァース(Aメロ)–コーラス(サビ)–ヴァース–コーラス–ブリッジ–コーラスという曲構成になっており、曲が進むにつれてエネルギーと感情が徐々に高まっていきます。ブリッジ部分では一時的にテンポや音の厚みが抑えられ、これにより最後のコーラスがより力強く、クライマックスとして際立つ仕掛けになっています。
セクション | 説明 |
イントロ | 力強いギターリフとドラムのグルーヴで始まる |
ヴァース1 | 歌詞は落ち着いたストレートなトーンで始まる |
プレコーラス | 緊張感を高め、コーラスへの布石を作る |
コーラス | 感情が爆発し、メロディがより広がりを見せる |
ヴァース2 | リズムにわずかな変化が入り、物語が続く |
プレコーラス | 一部アレンジを変えて繰り返される |
コーラス2 | フルバンドの音が加わり、一層の熱量が生まれる |
ブリッジ | テンポや音の質感が和らぎ、感情的な振り返りが入る |
ファイナルコーラス | すべての要素が集結し、クライマックスを迎える |
アウトロ | ギターやコードがフェードアウトし、余韻を残して終わる |
最初のヴァースは比較的落ち着いていて、ストレートな歌詞が特徴です。しかし曲が進むにつれて、特に2回目のヴァースやコーラスに入ると、エネルギーが徐々に増していきます。そしてプレコーラスに入ると緊張感が高まり、感情が爆発するコーラスへとつながっていきます。メロディはより広がりを見せ、音の厚みも増し、歌詞の世界観も深まります。曲の約3分の2あたりでブリッジが現れ、一時的に音楽が静かになります。この短い間奏によって、最後のコーラスがより強烈で感情的に響くようになります。曲はすっきりと終わり、余韻を残します。
Torby Brandのピアノバージョン:テンポと感情
<Torby brand’s piano arrangement of Zenzenzense>
Torby Brandのピアノアレンジは、原曲と同じBメジャーのキーを保っています。イントロでは、ギターリフやドラムが担当していた音は、左手のシンコペーションリズムとピアノの高音域で奏でられる滑らかなメロディに置き換えられています。テンポは180BPMから始まり、原曲よりも10BPM遅く設定されているため、やや落ち着いた雰囲気が生まれています。これは、速いパッセージがピアノで演奏する際に一般的に難易度が高いためで、特にメロディが2オクターブにわたって跳躍する部分は右手だけで素早く演奏するのが非常に挑戦的だからです。しかし、テンポを落とすことで、より繊細で表現力豊かなフレージングが可能になるという利点もあります。Torby Brandは動画の説明欄でも、練習時にはもっとゆっくり弾いても良いと述べています。
構成と音楽用語
ピアノバージョンは、原曲の構成を忠実にしたがっています。徐々に高まる緊張感を保ちながら、Torby Brandは適切な音楽用語も用いています。代表的な用語として「コン・モート(con moto)」と「コン・ブリオ(con brio)」があります。「コン・モート」は「動きをもって、いきいきと演奏する」という意味で、「コン・ブリオ」は「大胆に、活気を持って演奏する」という意味です。これらの用語は単独で、または組み合わせて使われており、楽譜を読む演奏者に明確な演奏指示を与えています。
ダイナミクスによる重なり
曲は徐々に盛り上がりを見せ、ピアノアレンジでもそれを反映して段階的に音の重なりが増えていきます。イントロは比較的薄いテクスチャーで始まり、右手の単一メロディーが主導する第1ヴァースは、mp(メゾピアノ)という控えめな音量で演奏されます。37小節目のプレコーラスではダイナミクスがmf(メゾフォルテ)に上がり、この時点で左手の伴奏も厚みを増します。Torby Brandはここで和音の音を増やすことで重なりを強調しています。103小節目(第2ヴァース)では、右手がオクターブユニゾン(同じ音を2つの異なるオクターブで同時に演奏すること)を用いてより力強さを加え、ダイナミクスはf(フォルテ)に上がります。最も音の重なりが顕著なのは121小節目から始まるコーラス2です。ここではダイナミクスがff(フォルティッシモ)とこのバージョンで最も強い部分となり、Torby Brandはオクターブユニゾンの上にさらに和音の音を重ねることで、より激しくパワフルな響きを作り出しています。
バンド楽器とピアノの対比
Torby Brandのピアノアレンジで特に注目すべき点は、原曲の楽器の音色や特徴をピアノで巧みに再現していることです。例えば、83小節目の第2ヴァースでは、左手が原曲のベースソロのメロディを捉えています。また、74小節目や161~162小節目などの箇所では、左手の低音域の厚いコードブロックを使って、ドラムの切迫感や壮大なリズムを表現しています。これらの工夫により、ピアノ1台でもバンド楽器それぞれの個性や躍動感を鮮明に伝えようという意図が感じられます。
ブリッジからアウトロへ
イントロの柔らかいアレンジと同様に、ピアノアレンジのブリッジ部分も原曲とは異なる形をとっています。原曲のブリッジは、次のクライマックスに向かう前の穏やかで感情的な休息の場面で、手拍子やコーラスが入り、他の楽器がフェードアウトして音の空間を作り出しています。一方、ピアノバージョンでは和音のテクスチャーがより明確に強調され、ペダルと高音域の音色の使い方によって、柔らかくも輪郭のはっきりしたダイナミクスが保たれています。このことが、このセクションに独特の色合いを加えています。また、原曲にはない特徴として、第3コーラスの前半に「クールダウン(緩やかな落ち着き)」を挿入しており、これが最終コーラスのダイナミクスやインパクトをより一層引き立てています。
アウトロ部分は186小節目から始まり、原曲では力強いエレキギターのサウンドが特徴です。しかしピアノアレンジでは、分散和音の伴奏とやや控えめなダイナミクス(メゾフォルテ)で再解釈されており、演奏しやすい仕上がりになっています。
この新しいピアノバージョンで「前前前世」の感動的な魅力を味わいたい方は、ぜひご自身で演奏に挑戦してみてください。ピアノ楽譜はこちらからご覧いただけます!
「楽譜が難しすぎるかも…」と感じた方もご安心ください。Torby Brandのアレンジには、もっと簡単に弾けるバージョンもこちらからダウンロード可能です。



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